極寒の地にて愛を食らう
薄く開いた障子戸の隙間から、地面に舞い落ちる白い粉を見たような気がした。
あれは雪か。
それを確認するまえに障子が大きく開き、部屋に入ってきた男が背後の庭のようすを視界から隠してしまった。
ぴしゃりと後ろ手に戸を閉めて、「寒いなァ」と身を縮みこませながらコタツに入ってきた近藤の手にはしっかりアイスキャンディーがにぎられている。
寒いのはそれのせいだろ。土方が思わず内心でつっこみをいれていると、近藤はいま思い出したかのようにあいた手で障子戸のほうを指差した。
「そういや、さっき雪が降りだしたぞ」
やはりあれは雪でちがいなかったのだ。土方は「そう」とうなずきながら、先刻チラと見かけた白雪を思い出した。寒いはずだ。
「だから寒いんだなァ」
寒い寒いと言っておきながら、アイスキャンディーをぱくついているのはどの口だ。
コタツの天板のうえに山と盛られたみかんに手を伸ばした土方は、美味そうに棒アイスに食らいつく近藤を見てあきれたふうに肩をすくめた。
数日前、特別価格の半額で近藤が買ってきたというアイスキャンディーは現在大量に冷凍庫に押しこまれている。おまえらも好きに食っていいぞという太っ腹な大将の言葉により着実に減ってきてはいるが、それでもまだ数日は軽くもちそうだ。
見てるこっちが寒ィよとみかんの皮をむきながら土方が眉をひそめると、背中を丸くしてアイスを頬張っていた近藤は心外そうにエーと唇をとがらせる。
「でもトシー、コタツに入りながら冷たいモン食うのって、よけいに美味しく感じねェ? ほら、暑いときに部屋ガンガンに冷やして、それから熱いモン食うのとおなじで」
「ンなややこしいことしないで寒かったら熱いモン、暑かったら冷たいモン食ったらいいだろ。それより近藤さん、垂れてる」
「エッ」
溶けたアイスが棒からそれを持つ近藤の指先にまで垂れている。あわてて舌ですくいとる近藤をジィッと見やっていると、それに気づいた近藤が「おまえもほしいンならまだたくさんあるぞ」と言ってきた。
――そういう意味で見ていたのではないのに。
土方はため息混じりにかぶりを振った。
「俺はアンタのがほしいだけ」
平然と言い放ち、みかんの房をひとつ口に放りこむ土方に近藤が苦笑する。しょうがねえなァ、と半分ほど減ったアイスキャンディーを持った腕をぐいと差し伸べて、「ちょっとだけだからな」と土方の眼前につきたてた。
――これはいかに反応すべきか。
土方は近藤を見つめながら小首をかしげた。
「舐めていいのか……?」
手のひらからころりとみかんのかたまりが転げ落ちる。おもむろに布団を剥ぎ、土方は近藤の伸ばされたままの腕を避けぴたりと近藤のそばに寄り添うと、無理やりコタツのなかに半身を押しこめた。「舐め……?」と不器用に言葉を紡いだのち、声を失った近藤の隙を狙うように。
「いいの?」
「あ、あのトシくん、アイスのことだよねアイスの」
「俺、がんばるな」
「いやちょ、トシ! アイスのことだよねアイスの!」
「いただきます」
氷河をも溶かすほどの熱い眼差しで近藤を捕らえたまま、土方はみかんの香りが染みついた指先で近藤のアイスキャンディーをつまみとるとそれを口に含む。呆然とする近藤に、曝した白皙の面にうっすらと朱を滲ませながら艶然と笑った。
「なァ、してほしい?」
20080107