0904


 よく耳にする、好きなひとのしあわせが自分のしあわせであるというのには俺はどうにも賛同しがたく、ただきれいごとを並べた詭弁にしか思えなかった。
 近藤さんがほかのだれかとしあわせになるのを、俺は心から祝福することはできないだろう。近藤さんのとなりに俺のほかのだれかがいることを想像するだけでもぞっとするし、おそらくそんな場面を目にしたら、俺はきっと近藤さんを殺してしまうにちがいない。
 かんたんに言ってしまえば、そう、俺はただ近藤さんをひとりじめしたいだけなのだ。
 俺は近藤さんのことが好きで好きで好きで気が狂ってしまうのではないかと思うほど好きで、この世で俺以上に近藤さんを好きなやつは存在しないだろうと自負するほどに近藤さんが好きだ。
 近藤さんの誕生日という年に一度だけの日をふたりきりですごすには、いったいどうしたらいいのだろう。屯所ではゆっくりできないし、いっそのこと監禁でもしてしまおうか。
「トシ、眉間にしわが寄ってるぞ」
 考えごとをしていた俺の眉間を太い指がつんつんとやさしくつつくので、俺はその指をつかんで口にふくんでしまいたい衝動を必死におさえなければならなかった。
 やがて俺をもてあそんだ指がゆっくりとはなれていくのをやましい視線で追ってしまいそうになって、そっとくちびるをかみしめてさりげなく目を伏せた。
「近藤さん、きょう一日アンタの時間、俺にくれよ」
 俺が決死の思いで言ったセリフを、近藤さんはあっさり「え、なんで?」とかえしてきた。
「……誕生日だろうが」
「あ、忘れてた」
 わすれてた! 俺がずっと思い悩んでいたというのに、忘れてたと!
 俺はすっかり拍子抜けしてしまって、言葉をなくしてしまった。そんな俺の頭を近藤さんは楽しそうにぐしゃぐしゃとかきまわして、
「おう、どっかいこうか。トシのおごり?」
 ニヤニヤと笑うので、すっかりもてあそばれていた俺は苦笑するしかなかった。

20100904