眠り姫の戯言


 気配を感じ、土方は瞼を開けた。自室で眠っていたので、見慣れた天井が視界に入る。……はず、だった。
 土方の思惑とは別に、薄汚れた木目の代わりに近藤の顔があった。それも至近の距離で。
「……ッ」
 驚いた土方は飛び起きようとしたけれど、はっとしてそれを押し止めた。 近藤は依然として顔を覗き込んだままという前傾の上体だったので、土方が起き上がれば必然的に近藤とぶつかってしまう。 その光景を思い巡らせて、土方は金縛りにあったかのように、けれど平然としたふうに表情を変えず、口を開く。
「何、してんだよ」
 声は上擦っていなかっただろうか。内心で焦る土方を余所に、近藤はにっこりと微笑んでみせる。
「トシの寝顔、見てた」
「っ……」
 逆に、平然としたふうに言われてしまった土方は口を噤むしかなかった。
 いつものしたたかな姿はどこへやら、自身では気づいていないけれど土方の眉尻は下がり、困惑をあからさまに表していた。
「近藤さん……」
「うん?」
「――」
 今だったら、寝起きの姿を晒している今だったら、何を言っても許されるだろうか――。
 土方は近藤をジッと見つめながら、己の不埒な思考に苦笑を滲ませた。

甘い甘いキスをして
20060509