今宵貴方と心中ごっこ
生温い風が頬を撫で、腐った溝の匂いが鼻を掠めた。場所は橋の上、眼下には蒼黒の川が広がっている。
川幅はそう広くはないが、深さは二メートル以上あるらしいそれは、音もなくただひたすらに汚れた水を流し続けていた。
泥濘は尾を引き不快感をまとわりつかせる。
近藤は橋の欄干に両腕を置きながら、昼間優秀な部下によって報告された事件に思案をめぐらせていた。
いま、巷で流行っている心中事件を、警察部隊である真選組でも取り扱うことになった。
かねがねその事件の噂は聞いてはいたが、実際に現場に行くとなるとまた話は別であった。
「……どうしてかなァ」
ちいさく嘆息するのを、隣で紫煙を燻らす土方はしかし、聞き逃さない。
「なにが」
「心中って。なんですんのかなーって」
「のっぴきならねー事情があったンだろ」
「へええ」
のっぴきならない事情ねえ、と近藤はひとりごちた。
「それって、たとえばどんな事情?」
続けて尋ねると、土方は眉を寄せ、煙草を噛む仕草をしてみせた。
「……世の中には生きていくのが辛いヤツだってごまんといるンじゃねーの。金なくて生きていけなくなったとかサラ金に手ェ出してにっちもさっちもいかなくなって一家無理心中だとかあとは好きなヤツ、と……いっしょにいられなくなったり、とか……」
徐々に語尾を弱めていった土方は、俺にわかるはずねーだろ、と最後には怒ったふうに口調を荒げた。
「俺だって、好きなヤツとはずっといたい」
投げやりな物言いのなかに、しかし土方の本心が覗けて近藤は目をしばたかせた。
「……じゃあ」
無意識に、ことばを紡ぐ。
「確かめてみる?」
死んでから後、共に手をつないでいけるのだろうか。
見据えた土方の目は酒気を帯び、どことなく狂気を醸し出しているように見えた。それは自分も同じかもしれない。
土方の頬に手を添えた近藤は、漠然とそう思った。
late in summer...20060904
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