映画館に行く
 大好きなえいりあんシリーズの映画を観に来ていた土方だったが、今日はまったく集中できないでいた。いつもであれば映画を観ながら涙すら流してしまうのに、今日はそわそわとしてしまって落ち着かない。
 右隣に近藤が座っているからだ。
 土方は、しっかり右側の肘掛に腕を置き、準備を整えている。しかし、いくら待っても近藤からの接触はなかった。
(おれはいつでもいいぞ)
 胸のうちで訴えかけ、近藤の顔をそっと見やると、彼はいたく映画に夢中のようだった。本来ならば、土方だって同じようにスクリーンに釘づけになっていたはずなのだ。
(……おれがいるのに)
 くちびるをとがらせ、ひとり不貞腐れていると、ふいに近藤が首をまわしてこちらを見た。まさか、声に出してしまったのだろうか。内心であわてる。
「こ……」
「つまんねェか?」
「え」
 土方は面食らう。
 なぜ、と問い返す前に、近藤がひっそりとした声でつづけた。
「だってトシ、ずっとつまンなさそうな顔をしてるから」
(見られていた!)
 しかも、『ずっと』だなんて。土方は顔がかあっと熱くなるのを感じた。
 しかし近藤は勘違いをしている。土方は映画がつまらないだなんてすこしも思っていない。なぜなら土方は、これっぽっちも映画に集中していないので、話の内容すらも把握できていないのだ。
 ただひとつ、不満があるとするならば――。
「近藤さん」
 土方は外側の腕を伸ばし、膝の上に置いてあった近藤の手首をつかんで己の手に重ねるように載せた。そうして、近藤の耳許でそっと囁く。
「また同じの観に来ような。アンタのせいで、ぜんぜん観れなかったんだぜ」


07.05.29
*ぞっとするおはなし。