日曜大工を見守る
 土方は書類整理の合間にそそくさと、今日は非番で自室にいるはずの近藤の部屋へ向かった。だが、室内には誰もいない。どこへ行ったんだと訝しく思いながら屯所内をふらついていると、日の当たる廊下にしゃがみ込んでいる近藤を見つけた。土方の頬は自然と緩む。
「なにしてんだ、近藤さん」
 振り向いた近藤の足元には大工道具が散らばっている。彼は土方を認めるなり笑顔を浮かべた。
「ここ、壊れてたから修理してんだ」
 とんとん、と太い指が叩いた壁のそばには、こぶし大の穴があいていた。
 それを見た土方は、む、と黙り込んだ。見覚えがあったからだ。数日前、沖田と争った際に壊してしまったのだった。
 ほんのすこし、後ろめたい気分になる。
「そんなの、下の奴らにやらせればいいのに」
「こんぐらい頼むこともねェだろ。それに俺、こういうの得意だから」
 それきり近藤は口を噤み、作業に没頭してしまったので、土方もおとなしく近藤を見守ることにした。
 確かに近藤の言うとおり、彼の指先は器用に動く。新しい板を穴のあいた箇所にあてて、釘を打ちつけていく。
 そのようすを眺めているうちに、土方の胸はどんどんと高鳴っていった。
 じっと見つめられているのに気づいたのか、近藤が困ったふうに笑う。
「トシ、こんなの見てて愉しいか?」
「……近藤さん」
「うん?」
 首をかしげる近藤を前に、土方はとうとう我慢できなくなった。
「すげームラムラしたッ!」
「いッ、だァァァ!!」
 土方が近藤に抱きついたとたん、絶叫が屋敷内に響き渡った。打ち下ろした金槌が釘ではなく近藤の人差し指に命中したのだった。さらに不幸は続く。手から離れた金槌が近藤の足の甲に落下した。
 二度の衝撃を受けた近藤は廊下を転げまわった。
「イダァァァ……!」
「どうした近藤さん!? 畜生、いったい誰がこんなことを……!」
 土方は気づいていない。近藤が自分のせいで怪我をしただなんてちっとも思いつかないのだ。
「だいじょうぶだ近藤さん、アンタの仇はおれがとるしなにがあってもおれが責任もってアンタの面倒みてやるから!」
「まちがいなくあんたの仕業ですぜィ、土方さん」
 めらめらと闘志を燃やす土方といまだ床を転げまわっている近藤の前にひょいと沖田が姿を現した。
「なんだテメェ、喧嘩売ってンのか」
 ばちばちと火花を散らすふたりの間で、近藤の悲痛の叫び声はあがる。
「トシくん総悟くん、これ以上暴れるのはやめてェェェ……!」
 穴が拡大し、負傷した近藤のかわりに山崎が借りだされることになるのは、数十分後のことだった。


07.05.23
*ぞっとするおはなし。