土方はさっちゃんに会いに行く。
居酒屋に彼女を呼び出して、テーブルに運ばれたヤキトリにたっぷりマヨネーズをかけたあと、深刻そうな面持ちで相談を持ちかけた。
「実は折り入って頼みたいことがあるんだ」
「なにかしら」
ぴしっと背筋を伸ばし、眼鏡フレームを指で押し上げるさっちゃんは傍目から見ても格好良かった。
「一日だけ眼鏡を貸してくれ」
「なんですって?」
土方は語った。つきあってる奴が最近眼鏡に興味を持ちはじめたみたいなんだ。
マンネリ化してきた夜の生活にちょっと色を持たせようかと……いやマンネリって言っても俺たちはいつでもアツアツだけどな、昨日だってあのひと俺の――。
「そんなこと聞いてないわ」
ぴしゃりとはねつけられ、土方は我に返る。ああ、話が逸れたな。ごほんとわざとらしく咳をする。
「それでたまには趣向をかえてみようかと思ってるんだ。ほら、いま流行りの“眼鏡もえ”っていうのか? よく知んねえけど、あのひとが言ってた」
「そうね、眼鏡というアイテムはお手軽だから……特に普段眼鏡をかけていないひとがかけるのがイイってよく聞くわね」
土方は早速さっちゃんに借りたスペア眼鏡をかけながら帰途につく。度がかなり強いので、足許が危なっかしい。ふらふらしているうちに片足を溝のなかに突っ込んでしまった。膝下がすっかり泥だらけだ。
(最悪だ!)
イラッとした土方は眼鏡を外し、拳で握り潰した。ふんと鼻を鳴らして颯爽と身を翻した。
「どうしたんだトシ、その足」
屯所に帰るなり近藤にそう問いただされて、土方はなんでもないと粉々になった眼鏡を背後に隠した。
「風呂入るか? 俺もいまちょうど入ろうと思ってたんだが」
「入る!」
土方は眼鏡をぽいっと捨てて、眼鏡のことなどすっかり忘れて風呂に入る準備をはじめた。