03:呼び出す
近藤からの呼び出しで、ようやく土方は書類との奮闘に一時休止を告げ重たい腰をあげることができた。
電話で近藤に昼飯を食べたか問われるまで、自分がまだなにも食べていなかったことすら忘れていた。午後三時。土方は近藤に指定された神社へと向かう。
「トシ、こっちこっち」
何十段もの石段をのぼると、正面に見える鳥居のまえで手を振っている近藤が見えた。どうしたンだよ、近藤さん。ホラ、こっち見てみろ。近藤が指差す草むらのなかを覗いてみるとそこには猫がいた。おそらく親子なのだろう、親猫と仔猫の二匹が戯れている。首輪をしていないから飼い猫ではないらしい。と、そこまで観察した土方は近藤のほうへ視線を戻した。
「……俺を呼んだのって、そいつらを見せたかっただけ?」
「うん、かわいかったからトシにも見せたいと思って」
「……そう」
電話での近藤の口振りがなにやらあわてたふうだったので、なにごとかと思って来てみたら猫。拍子抜けだ。ありがとな、とつぶやくのもなんだか的外れのような気がして黙っていると、近藤の手のひらが土方の背中をぽんと叩く。
「じゃあなんか食いに行くか」
「え」
「だってトシ、なんも食ってないんだろ?」
なに食いたい、と訊ねる近藤に土方は自分を呼び出したのは猫を口実にして昼食が目的だったのかと理解して、今度はちゃんと「ありがとう」口に出して言うと近藤はうれしそうに笑うのだった。じゃあ行こうか、と身を翻した近藤の手に視線がいって、そこに赤い傷跡を見つけた土方は眉をひそめた。
「どうしたンだよ、それ」
「うん? ああ、さっき抱っこしようとしたときに引っかかれたのかな。ぜんぜん気づかなかった」
いまはじめて気づいたように、近藤は手の甲にできたひと筋の傷を口許に運び、舌で舐めた。土方は眉をひそめたまま口をとがらせる。
「俺以外のやつに手をだすからだ」
「なに言ってんだトシ、猫だぞ、猫」
「じゃア俺も猫にうまれてくればよかった」
バカなことを言っていると自覚はしているが、土方は思わずぽろりと零してしまう。目を丸くした近藤は苦笑を浮かべると、背後から土方の頭を抱きかかえるようにしてこめかみにキスをした。
「ダメだよ、トシ。おまえが猫だったら、こういうことできないだろ」
20080103