44:偽ハニィ仮ダーリン
「見合いするって、ほんとう」
 無表情の土方が訊ねてくる。思わず背筋をしゃんとのばした近藤は、ゆっくりとうなずいてみせた。
「まあ」
「結婚、するのか」
 重ねて問うてくる土方に、否定を表すべくぶんぶんとかぶりを振る。
「まさか」
 見合いの話をもってきたのが松平のとっつぁんだったから、断れなかっただけだ。近藤が憮然として言い放つと、土方はふんと鼻を鳴らした。
「アンタは、その気はねェのか」
「おまえは俺に結婚してほしいと思ってんのか」
「訊いてるのは俺だ」
「俺はしない」
 すかさず言い返すと、土方はすこし考える顔つきになって、静かに口を開いた。
「俺はアンタが幸せになるンだったら、イイ相手を見つけて結婚したほうがいいと思ってる……」
「トシ」
 まさか土方がそんなふうに思っていただなんて――。咎めるふうに名を呼ぶと、それまで深刻な面持ちだった土方の表情が急にかわった。にやり、と口許をゆがめて笑うそれに。
「ンなこと思ってるわけ、ねーだろ」
 一変して勝気な言い草に近藤が虚をつかれているあいだに、土方はその身を寄せてくる。額をすりあわせるほど、近く。
「アンタとつきあえンのは俺くらいだろ」
「……トシ」
「見合いなら俺がぶっ壊してやる」
 秘密を漏らすようにささやいた。――必要だったら、女装でもなんでもするけど? そうしたら、そんときだけでも堂々とアンタの恋人面してられるしな。
 軽口を装いながらもその本心が見え隠れしている。彼ならやりかねない。
 そのある意味修羅場となった場面を容易に想像することができて、近藤は苦笑した。
「そんな必要ない」
「なんで」
「いつだって恋人面してたらいいだろう」
 先刻とは一転、今度は土方が虚をつかれるのであった。


20071103