34:センチメンタル
馴染みのあるにおいにつられて縁側に出た近藤は、庭に佇むひとりの男を見つけるなりやっぱりとひとり納得したようにうなずいた。
「なにしてンだ、トシ」
声をかけると、煙草をくゆらせていた土方は振り返り、休憩だと短く答えた。そういえば彼は今日、朝からずっと書類とにらめっこしていたのだなと近藤は思いだす。
土方が色づきはじめた木々の下をくぐり、落ち葉を踏みしめながらこちらへ歩いてくる。それを見ていた近藤は、ふとあることに気づいた。
「それ、俺へのおみやげ?」
「え……?」
土方の頭に手を伸ばすと、彼は驚いたように身をすくめたが後退するそぶりも見せずに近藤の行動を息を詰めて見ている。近藤は、微動だにしないでいる土方の髪の毛に絡みついた紅葉を指先でつまんでとり、土方の目の前でそれを揺らした。
「ほら」
「……ああ」
なんだ、というふうに土方はわずかに表情を崩した。近藤には安堵したふうにも見えたし、がっかりしたふうにも見えた。
やらねェよ。土方がつぶやいた言葉に近藤は咄嗟に反応ができないでいた。え、と瞠目しているうちに土方は筋張った手からちいさな紅葉をすくいとっていく。その仕草は大事な宝物を扱うような慈しみすらもっているように思えた。
「ほしいンだったら、そこらじゅうに腐るほど落ちてる」
土方は笑いながら背後に視線をやった。べつにそんなモンほしくなんか。近藤が反論すると土方も「俺だっていらねェけど……」と言葉をにごすように言って、
「でもこれは特別」
愛おしそうに見つめながら紅葉を指先でくるくるとまわした。
20071017