33:落花
障子越しに差し込む朝日が室内に充満している。晴れやかな朝だ。この心にひそむ蟠りを霧散するにはちょうどいい。
しんとした静けさを包んでいた和室に凛とした声が響く。
「近藤さん、俺アンタのことが好きなんだ」
昨晩、夢うつつで囁いた言葉を一言一句違わず繰り返す。二度目だからか、躊躇いはない。心臓の鼓動は、ひどく騒々しかったけれど。
「うん。昨夜聴いた」
なのに、近藤は拍子抜けするほどあっさりとうなずいて、ちいさな笑みまで浮かべている。
「……いじわるだな、アンタ」
くちびるを緩めて笑う男を、土方は恨めしげに睨めつけた。
「そんなことじゃなくて、俺は、昨日も訊いたとおりアンタが俺をどう」
「なんだよトシ、俺が言ったの、聴いてなかったのか?」
そう言われてしまったら、二の句が継げない。土方はくちびるを尖らせ、うつむいた。
だって、寝てしまったのだからしかたないではないか。アンタがそばにいるってわかったら、安心して寝ちまったの。言い訳にもならぬ反論を心中で呟く。
答えを聴きたくない、という思いもどこかにあったからかもしれない。怖かった。だから逃げたのだ。
ただ、それだったらいままでとなんら変わりはない。不覚にも零してしまった想いを、なかったことにするにはあまりにも彼への気持ちが大きすぎた。
顔をあげられずにいると、それまでの沈黙を破るように正面に座する男が噴き出した。なにを笑って、と怪訝に眉をひそめた土方の頬に、なんの前触れもなく近藤の手のひらがやさしくふれた。びくりとして顔をあげると、すぐ目の前にきていた近藤のくちびるが土方のそれとふれあった。
息を詰める。膝のうえでにぎっていた拳を強くにぎりしめた。俺はな、と離れたくちびるが紡ぐのを土方はじっと見つめる。
「もちろん――」
ささやかれる言葉を、今度こそ聴き逃さないように。
20071007