30:「僕はまだ、覚えているよ」
「俺はまだ、覚えてるよ」
土方の伏せられた目を見て、近藤はふいに鋭利な双眸を向けられていた昔を思い出した。
「昔のおまえといったら、だれにも隙を見せないで、なかなか懐いてくれなかったもんなー」
近藤は懐古する。昔、道場を開いていた時代、土方と出会ったときのことを。手負いの土方は道場に連れ帰ってからも一線を引いていて、しばらく心を開こうとはしなかったのだ。
昔話を語りつづけていると、土方の表情が曇っていることに気がついた。
「トシ?」
言葉を切った近藤が声をかけると、土方は不機嫌そうに眉をひそめて声を落とす。
「……昔の俺のほうがよかった」
思いもかけない台詞に、近藤はエッと声をあげた。
「なに言ってんだ、トシはトシだろう」
「だってアンタ、昔はよかったー、って顔してる」
すっかり拗ねてしまったらしい。彼はくちびるを尖らせ、そっぽを向いてしまった。苦笑した近藤は、土方の後頭部に手をあて、引き寄せるとおどけるように言った。
「いまのおまえのほうがいろんなカオ見せてくれる分、いッかなァ」
「……ッ、バカ!」
見る間に赤面していく土方を、近藤は目を細め見つめた。いまも昔も、比べられない。手放せない男にかわりはないのだ。
20070917