29:やさしくしないで
 土方は項垂れている。正座をし、その体勢のままとうに三十分はたっている。
「ごめん、近藤さん」
 正面に正座をする近藤にぽつりと呟く。近藤は当初あぐらをかいていたのだが、土方が正座をしているのを見て座を正したのだった。
「別にどうってことないって」
 もう何十回目かわからないやりとりである。朝の会議が迫っていたが、ふたりともその場から動こうとはしない。
 今朝、土方が起きると近藤の布団のなかにいた。うおッという近藤の悲鳴で土方は目を覚ました。昨夜は自分の布団で寝たはずなのに。
 覚えがない。たぶん厠に起きたあと、自分の部屋とまちがえて近藤の部屋に来てしまったのだと、土方は近藤に頭を下げた。近藤はすまなさそうに目を伏せる土方の肩を鷹揚に叩いた。
「俺はぜんぜん気にしてないから」
 ――気にしてない。
 土方は項垂れたままくちびるを噛みしめた。
 ならば、わざとアンタの布団に忍び込んだんだと嘯いても、「気にしてない」と言えるだろうか。
 声に出さぬよう、土方はますますくちびるを強く噛む。


20070916