25:黒い羽根
「じゃあトシくん、ぜんぶ終わったらごほうびくれる?」

 期限が迫っている書類にせっせとサインをしていく近藤を、土方はすこしはなれたところで見守っていた。火のついていない煙草をくわえ、先刻近藤が言い出した提案について考えながら。
 彼は本気であんなことを言ったのだろうか。ごほうび――つまりキスをしてくれと言われたのが己の聞き間違いでなければ、あとすこしで近藤のくちびるにふれることになる。
 近藤の手許にはあと数枚の書類しか残っていない。土方が持ってきた、山ほどの仕事は的確かつ迅速に処理されている。
 それがくだんの台詞の効力ゆえなのかは、わからないが。
「トシ、これが最後の一枚」
 紙切れを目の前に突き出され、土方はびくりと肩を震わせた。見上げたそこには近藤の笑顔がある。時間を確認すると、指定した時刻より30分ほど早かった。
「ほら、ちゃんと終わっただろう」
 土方は、そんなふうに笑う近藤が好きだ。
 だが、今回に限っては――、裏表のない笑顔を浮かべる男の背後に、黒い羽根を見た気がした。


20070901