24:タイムリミット5秒前
目の前の机の上にどさりと書類が積まれた。紙の山はうずたかく、正面にいる男の姿も見えなくなるほどだった。
「近藤さん、これ午後の五時がタイムリミットだから」
土方が紙の束の上から険しい顔を覗かせた。からだを仰け反らせていた近藤は彼を見上げて「エッ」と声をあげた。目を泳がせ時計にやる。
「……トシ、いまって三時だよね」
「そう。アンタが午前中ふらふら遊び歩いてなかったらとっくに終わってただろうな」
近藤の自筆のサインが必要な書類である。それ以外のものは、なるべく自分に負担がかからぬよう土方が選りすぐっているのは近藤も知っていた。
それにしてもこの量はない。
確かに近藤が午前中から仕事にかかっていたらなんの問題もなかったものだけれども。
近藤は眉間に皺を刻み、ううんと唸った。
「よし、やるかァ」
やるしかないのなら、はやく取りかかったほうがいい。仕方なく一番上の書類をつまめば、安心したように土方がこっくりとうなずいた。ふと、近藤は妙案を思いついた。
「じゃあトシくん、ぜんぶ終わったらごほうびくれる?」
それがあるのとないのとでは、俄然やる気がちがう。たとえば酒の一杯でも奢ってくれるだけでいいのだ。いや、酒盛りに付き合ってくれるだけでもいい。それがふたりで出かける“口実”にもなるし。
だが、土方はそうとは捉えなかったようだ。目をきょろきょろとさせ、動揺しているようである。なんてあからさまな。
「ご、ごほうびって」
声を上擦らせる土方を見ていると、ふつふつと悪戯心が沸き起こってくる。近藤は書類を机の端に押しやって、身を乗り出して土方の耳許でささやいた。
「ちゅーとか」
そうしたら俺がんばれるんだけど、と重ねて言えば、土方は口をぱくぱくとさせる。
「う……あ……」
こうしている間にも時間は過ぎる。さあはやく心を決めてもらわなければ。
近藤はあいかわらず言葉を失ったままの土方を横目に、書類にサインを書きつけた。
20070828