19:陰・陽
茹だるような暑さに辟易し、強い日差しを逃れて木陰に入りひと息つく。ぼんやりと煙草を吹かしているうちに、唐突な眠気に襲われた。指に煙草を挟んだまま、うとうととしはじめる。このままではいけないと頭の片隅では思いつつ、どうにも思考がうまく働かない。
ついに煙草を持った手のひらが、太腿のうえに落ちていく。あ、とちいさく声を漏らすのとほぼ同時に、手首をつかまれる感触を受けた。指の間から煙草が抜かれ、弛緩した腕をそっと下ろされる。薄く開いた瞼の隙間から入り込む、突き刺すような目映い光に目が眩んだ。ゆっくりとまばたきをした瞬間、くちびるにやわらかいものが触れる。
すぐに離れていったそれを、確かめるほどの勇気はあいにく持ち合わせてはいなかった。
もしかすると、この暑さが見せた幻惑だったのかもしれない。ただ、そうだとすると吸殻がなくなっているのは解せないし――。
陽光を背に受けた、眩しいほどの笑顔だけが瞼に焼きついて、しばらく消えることはなかった。
20070815