08:またここであいましょう
「近藤さん、忘れ物ねェか? 報告書と資料は持ったか? ハンカチちり紙……あ、替えの服はそれでちゃんと足りるのか?」
玄関先で急きたてられ、近藤はついぷっと噴き出してしまった。土方が怪訝な顔をする。
「なんだよ」
「いや、トシは世話焼き屋さんだなァと思って」
「バッ……」
土方の顔が見る間に赤くなっていく。魚みたいに口をぱくぱくさせている。
「お、俺は単にアンタを心配して」
「ん、ありがと」
「……忘れ物は、ねェな」
「おう。だいたいコレまとめてくれたのおまえだろう」
けっしてすくなくはない荷物を掲げてみせる。土方はちらとそれを一瞥して、「だったら平気だ」と冷静な素振りでうなずいてみせた。
しかしながら顔は火照らせたままである。
「そんなに俺って頼りねーかなァ?」
近藤は苦笑した。出張の際はいつもこの騒ぎなのだ。むろん、近藤はそれを迷惑だとは思ったことはないし、逆にありがたいと常々感心していた。
ただ、こうもあれこれ言われてしまうと、そんなに自分は頼りないのかなァ、と首をひねってしまう。複雑なのだ。
「別にそういうわけじゃ」
「ンじゃどういうわけ?」
否定の色を窺わせた顔を覗き込もうとしたが、その前にぱしんと額を叩かれてしまった。
「とっとと行っちまえ、遅刻すんだろ」
「うわ、トシくんたらヒドーイ!」
おどけて笑う。土方の眦が吊り上がったのを見て、近藤はあわてて方向転換した。
「いってきます」
声をかけると、「いってらっしゃい」とちいさいながらも返事があった。
近藤はその声を背中に受け、振り向くことはせずにゆるやかに手を振ってみせた。
20070624