念願のパフェを目の前にして坂田の機嫌はなかなか良かった。この店の一番のお薦めはイチゴパフェだというので、チョコレートパフェと迷いつつもそれを選んだ。
「よくそんな甘いモンが食えるな」
「一日にこんくらいの糖分摂らなくちゃ人間死んじゃうんだよって習わなかったのか」
「習うか」
「てかアンタんとこにもいるだろ、ほら、瞳孔開き気味のマヨネーズ星人」
ぐ、と近藤が押し黙ったことに坂田は気づいた。パフェから顔を上げて正面を見やれば、近藤の顔がわずかに赤らんでいる。
ははあ、と坂田は喉を鳴らした。
「わかった。マヨネーズにうんざりして家出してきたんだな」
「ンなわけねェだろうが」
「じゃーなによ」
言いたくなきゃいいんだけど、その代わりパフェはやんねーぞ。いらねーよ。なんだよ、美味いのに。
食われてェのか。やんねーっつうの。いらねーよ。
不毛なやり取りののち、近藤はため息を落として語りはじめた。
彼曰く、気になるひとがいるがそれは好きになってはいけないひとで、どうにかして忘れたいと思っている。
のだけれどもなかなかうまくいかずに云々、だそうだ。要は色恋沙汰ということだ。
色艶の良いイチゴをぱくりと口に放り込んだ坂田は、なるほどと頷いた。
「マヨネーズじゃなくてその本人に会いたくないから家出してきたんだな」
「そうあいつも今日はオフだから屯所にいてなんとなく気まずく……って、え」
「うんうん」
「え」
「だろ?」
「おっ、俺はトシが好きだなんて一度も言って……!」
見る間に近藤の顔が真っ赤になっていく。こういう奴のことを隠しごとができねェ人間っていうんだなと坂田はしみじみ思った。
「何をいまさらウジウジ気持ち悪く悩んでんの」
「気持ち悪くありません。ていうかあたりまえだろ、だってアイツは」
大事な仲間だし、と近藤は顔をゆがめる。もう一度ため息をつかれそうだったので、その前に坂田は音をたててスプーンを空になったパフェグラスに突っ込んだ。
「だーから、いまさら体裁なんか気にしてんじゃねえっての。散々ストーカー行為してたくせによ」
「む。俺はストーカーじゃなくて愛のハンター」
「あー、それはもういい」
坂田はうんざりしたふうに顔の前で手のひらを振った。さっさとすっきりさせちまったほうがイイんじゃねえの。
す、すっきりって。あ、なんかやらしいこと考えてる。かっ考えてません。まァいいけど、大丈夫だって振られたらまた俺がパフェ奢られてやるから。
え、俺が奢るの振られたのに、っていうか振られること前提って。
「それがイヤなら頭ぶん殴ってやろうか? また記憶喪失になってすっきり全部忘れるかもしんねーぞ」
「結構です」
それにアイツのことはもう忘れたくないし。近藤はそう続け、懐から財布を出して席を立つ、
「今日はありがとな。話聞くだけ聞いてもらうだけでも、すっきりした」
「そらどーも」
忘れたくない、ってもうテメェの心ンなかでは決まってんじゃねーかよ。晴れやかな笑顔を浮かべて去っていく後ろ姿を見送りふと思う。
振られたときだけじゃなくてうまくいったときも奢れって言っときゃ良かった。