「トシ、起きてるか」
障子の前で声をかけると、室内で何か動く気配が伝わってきた。
起きていたのかと安堵を覚え、「入るぞ」と障子に手をかけたところで慌てた様子の声が近藤をせき止めた。
「入ってくんな!」
「え……なんで」
着替えでもしているのかと問えば、そんなんじゃねェと返ってくる。確かに着替えごときで狼狽える彼ではない。
ならば一体どうしたんだと、重ねて尋ねるが今度は沈黙。近藤は困ったふうにぽつりとこめかみをかいた。
「具合でも悪いのか」
「……そうだ。だから入ってくんじゃねえぞ」
微妙な間の後の、きっぱりとした拒絶。
明らかに口実だとわかるそれに、近藤は顔をしかめた。
なぜこうまでして、土方は部屋に入られるのを拒んでいるのだろうか。
「……入るからな」
このままでは埒が明かない。ため息をついた近藤は障子を開け放った。
「近藤さ……!」
部屋の真ん中に敷かれた布団が、もぞりと動く。急いで頭まですっぽりと毛布をかぶったようだ。まるで何かから逃げているみたいに。――一体何から?
「トシ」
「入ってくんなって言っただろ」
怒ったようなその声色には、しかしどことなく覇気がないように思える。布団の傍らに立った近藤は、静かな声を落とした。
「おまえ、どうしたんだ」
「……なんでもない」
「なんでもないならさっさと起きろ。仕事だ」
「具合……、悪いから今日は休ませてくれ」
「トシ!」
これではまるで、学校へ行きたくないと駄々を捏ねている子どものようではないか。近藤は、いい加減にしろと毛布をつかみ、思いきり引っ張った。
「あ……っ」
はがされた毛布のなかから現したその姿を認め、近藤は目を丸くした。
「どうしたんだ、トシ、それ……」
「だ、から見るなって……!」
奪った毛布をまた奪い返され、足元にふたたび毛布のかたまりができる。
近藤はいましがた目にした、土方の容貌を思い浮かべ、くすりと口許を緩めた。
「だって、かわいー……」
「うるせェ何も言うな!」
土方が姿を見せない理由は、彼の姿を見れば歴然であった。前髪をすこし、切りすぎてしまったのだろう、いつもの彼よりも断然幼く見えた。
「自分で切ったの?」
「……朝。目に入って邪魔だったんだよ」
「そんで切りすぎちゃったのかァ。うん、でも似合ってるぞ!」
「……うれしくねェ」
笑いやがって、と恨めしげに布団の隙間からひょっこり覗かせる顔に、近藤はもう一度笑ってしまって、不貞腐れてしまったのか土方はふんと背を向けてしまった。
「トシくーん」
「今日は休むからな! どうせ片づけなきゃいけねェ書類が溜まってたんだ、それの処理してる」
「そっか」
「だからアンタははやく仕事、行け」
「うん」
でもその前に、もう一度顔を見せてとねだってみると「いやだ」の一点張り。頑固だなァ、と苦笑した近藤はその場にしゃがみこんだ。
「トシの顔見なくちゃ、仕事やる気起きないンだけどなァ」
言うなり耳まで赤くした顔をこちらに傾けて、
「……さっさと行けよ」
くちびるをとがらせる彼に、近藤はすばやくキスをした。