ケホ、とひとつ咳を落とすとすかさずそれを聞き取ったらしい近藤が「トシ、風邪か」と心配そうに尋ねてきた。 それに土方は、否定の意を表すようにかぶりを振ってみせた。
「風邪、ひくほどやわじゃねーよ」
「だって声、かれてるぞ」
 確かに近藤の言うとおり、土方の声は常よりもちょっと掠れていた。 しかしこれは風邪をひいたわけではなく、れっきとした理由があったのだ。土方が胸を張って言えるような、原因が。
「これはアンタのせい」
「俺?」
 昨夜のこと憶えてねーの。 上目遣いでそう囁けば近藤は一度きょとんとして、それから顔を赤らめて「あー……」といささか情けない声を発する。 何やら思い当たったらしい近藤の様子に、土方は満足気に口許を緩めた。
「思い出した?」
「そりゃー……」
 気まずそうに指先で頬をかいた近藤は、そういえばと身をひねり、机の上を漁りはじめた。 土方が肩越しに覗き込もうとする前に、こちらのほうへと向き直って、
「トシくん、あーん」
 言われるがまま、ぱかりと開けた土方の口のなかに近藤が何かを放り込んだ。 舌の上に広がる味はほんのり甘い、どうやら飴玉のようだ。
 ころりと舌で飴粒を転がすと、やさしい甘さが喉に伝わる。しばらく口内でその味を味わっていた土方は、おもむろに口を開いた。
「なァ近藤さん、これって今夜のお誘い?」
「はっ?」
「はやく治して、ってことじゃねェの?」
 甘い吐息がかかるくらいに近藤のほうへと身を傾けると、そのほんの少しの隙間を近藤が詰めてきた。
「ああ、そーいうこと」
 だからはやく。
 言葉は互いの唇のなかに吸い込まれ、音になることはなかった。


声が枯れるほどあなたを、


title by 24番目のネジ[http://24th.chakin.com]
好き、5題/声が枯れる時には
20060926