書類を渡す際、指先がふれあったのは偶然の出来事だった。だから土方は、その一瞬に近藤の眉間にしわが寄ったのを見かけてすくなからず傷ついたのだった。
 知らず「ごめん」ということばが口を告いでた。さわってごめん。傷ついたことなどおくびにも見せず、それでも奥歯を噛みしめずにはいられなかった。
「トシ」
 低い声で呼ばれ、土方はそろりと近藤を見やった。彼は難しい表情をしていた。なに、と問いかえす声が震えた。
「おまえ、手冷たいな」
「……え?」
「手、冷えてるって」
 土方はぼんやりと自分の手のひらを見つめた。確かに冷たい。冷え切っている。自分でもわかるほど。寒いからしかたない。
 ――ということは。
 先ほどの近藤の険しい顔は、手がふれあったことに対して嫌悪を感じたからというわけではないのだろうか。
 全身から力が抜けていく。馬鹿らしい。自嘲を漏らした土方は、次の瞬間息を飲みこんだ。近藤の手のひらが冷たい自分の手を覆ったからだ。覆った、というよりも握りこんでいるといったほうが正しいか。
「こ……ッ」
「俺の手、あったかいだろ」
 にかっと笑う、その顔には裏表がない。土方は両手を近藤に奪われたまま、手のみならず全身の熱があがっていくのを感じていた。



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冬、5題/熱を上げる部屋
20080208