鈴の音が鳴る。
 土方が動くたび、その首にはめられた首輪のちいさな鈴も、存在を示すかのように揺れるのだった。
 オプションだからと言って、かわいらしい猫耳とともにそれをくれたのは近藤だ。
 なんだよそれと口では言いつつも、喜悦の色を表情に滲ませている近藤に、土方は抵抗するのもばからしくなった。
 特別な日だろ、と宥めるみたいな口ぶりに、アンタのほうが喜んでんじゃねえかと心のなかで反論していた土方だったが、いまでは、声に出して言わなくてよかったと、乱されるままに胸を撫で下ろしたのは、たった数分後のことだ。
 なぜなら、いまの状態。
 得てして土方がいやがっているふうには、とてもじゃないが見えなかった。
 だらしなく半分開いたくちびるからは、ひっきりなしに喘ぎ声がもれている。まるで猫が甘えるみたいな、やわらかい声だ。
 くわえて、鈴の音。そして頭には、猫耳のついたカチューシャまでつけておきながら、感じている、だなんて。
「んア、あ……」
 散々指先でつぶされ、舐られた胸元はすっかり赤くなってしまっている。湿った熱い吐息を吹きかけられるだけで、どうにかなりそうだ。
 土方の股間は、すっかり勃ちあがっている。まだ一度も、そこにはふれられていないのに。
 近藤は、からだのいたるところにやさしくそして熱い接吻けを施してくれるのに、ただ一点、性器にはふれてこないのだった。
 我慢できずに先端からこぼれた滴が茂みを濡らしている。 それなのに近藤は、それに気づいたようすもなく、もしくは気づいているのに気づかないふりをしているのか、いまでは土方の頭部についた猫耳にふれたりくちびるで挟んでみたりして、いたくご執心のようだ。
 それが土方には、気に入らない。
 むろん、彼の希望によって身につけたものではあるが、そっちばかりを愛でられているのは不本意だ。 そんなにそれが好きなら、別に自分がつけなくてもよかったのでは、とまで思ってしまう。
「近藤さん……」
 ほんのすこし険の含ませた声色で、土方は、近藤の髪の毛をそうっとつかんだ。そのまま上に持ち上げれば、ようやく近藤の目線がこちらへ落とされたので、薄く膜の張った双眸を細めてみせた。
「こっちも、さわって」
 甘く、ねだる。
「どこ?」
「ここ……」
 からだの傍らについていた近藤の手をとり、己の下腹部へと導いていく。筋張った手が接近してくると思うと、期待に喉が鳴った。
 あと、数センチ。
 それまでされるがままになっていた近藤の指先は、ペニスにふれる直前で土方の思惑とは裏腹に、反発するように離れていってしまった。
 土方の口から、物足りない吐息がこぼれる。
「ああ……」
「なあトシ」
 呼ばれるままに、近藤を見上げる。薄暗いなか、近藤は、なんだかいじわるく笑っているふうに見えた。
「ないてみて」
「は、あ……?」
 予想だにしないねだりに、土方は眉宇を寄せ、口をぽかんと開けてしまった。
「だから、猫みたく」
 ついで、耳元に寄せられたくちびるが爆弾発言を落としていき、土方は両目を見開いた。
「ば、かじゃねェの……!」
 顔が熱くなる。からだだって、これ以上ないっていうくらい、火照ってしまった。
「だって、せっかくだし」
「知るか!」
「エー、かわいいのに」
 さらりと近藤が言い放つ。それを聞いた拍子に、土方のペニスからまた滴が溢れ出た。
「ないてくれたら、俺もさわってあげる」
 なんて交換条件だ。けれども利害は一致している。
 自分は近藤にふれてほしいのだし、近藤は自分にないてほしいのだと言う(まったくもって、不可解なことだ!)。
「な、トシ」
 欲の秘められた声で呼ばれてしまえば、土方に考えている猶予などもう残されてはいなかった。
「……かった、から……ッ」
 かたく目を瞑り、こくこくとうなずいた。それなのに近藤が、「ほんとう?」とさらに訊いてくるので、「いいからはやくさわってさわって」と、土方は泣いてしまいそうになりながら身をよじらせた。
 くつりと笑う気配がしたので、揶揄されたのかもしれないと一瞬思ったけれど、それも刹那で吹き飛んだ。
「ああ……ッ!」
 大きな手のひらが性器を包み込む。間をおかずに上下にこすられ、先走りにまみれていたそれからは、濡れたいやらしい音が絶えずたった。
「ふあ、あ、あ、ん」
 全身の血液が、近藤にふれられている箇所に集まっていくみたいだ。
 土方は身もだえ、そのたびに鈴が鳴る。かわいらしいその音も土方の色情を煽るだけだ。
「や、こんど、さ、ん」
 からだをくねらせ、土方は近藤の手のひらから逃れようとした。いまにも達してしまいそうだった。それはなんとしてでも避けたかった。
「なんだトシ、おまえがさわれって言ったんだろう」
 近藤が首をかしげ、それにまだないてもらってない、と納得のいっていない顔をする。土方を扱く動きはやめようとはしなかった。指先で先端をこねる仕種をする。近藤の指もしとどに濡れてしまっていた。
「あ、ン……お、れ……、はやくアンタの、ほしい」
 土方は、先刻と同じように近藤の手首をつかみ、自ら開いた両足の付け根へと運んだ。ひくつく窄まりはすでに流れ落ちた先走りで濡れそぼっており、近藤の指がわずかにふれただけで収縮を繰り返す。
「トシはわがままだなァ」
 近藤が困ったふうに笑う。土方はくちびるをとがらせた。
「……今日くらい、イイだろ」
 不貞腐れて言えば、「うん、まあイイけど」と近藤は素直にうなずく。そうして、土方の奥へと指をひそませた。
「あ、あ、あ……!」
 近藤の太い指を、嘘みたいに容易に受け入れてしまった。差し入れを繰り返されて、指を数本に増やされても、土方は満足できない。
 近藤の股間へ震える手を伸ばすと、硬い感触にふれた。屹立したそれを撫でながら、浮き出た血管を指の腹でくすぐった。
「いれて……」
 艶のある声色は無意識だ。近藤の表情も、いっそう切羽詰ったものへとかわる。
「トシ」
「……んあッ」
 指を引き抜いた近藤が、土方の膝裏に手を差し入れて、思いきり持ち上げた。近藤の眼前に、土方の窄まりがさらけ出される。土方が自ら望んだことだったとしても、羞恥で顔が赤らんでしまうのは仕方のないことだった。
 ゆっくりと近藤がなかへ入ってくる。いままでとはちがう質量に、土方はちいさな悲鳴をあげた。
 ことさら時間をかけてすべてを埋め込むと、近藤が大きく息を吐き出した。土方も、つられるように胸を上下させ、荒くなった息をすこしでも宥めるようにする。
 平気か、と視線で尋ねられたので、土方はこくりこくりとうなずいてみせた。それを見届けると、近藤は動き出す。
「んっ……あ、あ!」
 土方は近藤の背中に腕をまわし、彼の肩口に強く額を押しつけた。
「近藤さ、近藤さん」
 すすり泣くみたいに鼻を鳴らす。それにこたえるかのように耳朶をやわらかく噛まれて、近藤を受け入れている箇所が震えた。う、と近藤がうなる。
「ん、トシ……あんま締めつけんな」
「知る……か……!」
 もう、なにがなんだかわからない。頬が濡れている感触がするので、もしかすると泣いてしまってるのかもしれない。
 それでも土方はそれを確認するすべもなく、ただ近藤にすがりついていることしかできなかった。
 そんなとき、近藤のかすれた声が耳元に注がれてくる。
「なあトシ、さっきの約束、覚えてる?」
 近藤の指先が猫耳を弄り、土方の喉元では鈴の音が鳴っている。
「あ、あ、もう……ばか……ッ」
 今夜は長い夜になりそうだ。


20070506