「なんだトシ、まだ寝てるのか」
 ぶしつけに開いた障子から覗いた顔が、布団のなかでだらだらとしていた俺を見るなりそう嘆息した。
「休みなんだから別にいいだろ」
「まあそうだけど」
 なぜだか異様に赤く色づいた鼻をぽつりとかいて近藤さんはそっぽを向きながらうなずいた。
「そんじゃーおやすみ」
 あっけなく、障子が閉じられていく。結局用事はなんだったんだよ。 呼び止めようとして起き上がった俺の耳に、ぴしゃりと障子の閉まる音とともに近藤さんの声が届いた。
「なあトシ、雪が降ってる」

 声に導かれて、まるで天国みたいにあったかい布団のなかから抜け出し、肌に突き刺すような痛みをつきつけてくる外気に身をさらす。
 寒い。寒かった。
 吐く息は雪にも負けないほど白い。自然と身を縮こまらせながら、それでも視線は庭に積もる雪にくぎづけになる。 ――正確には、庭の中央、なかでも足跡が大量に残されているその先にぽつんと佇んでいる、一体の雪だるまに、だ。
 目を凝らすと、小枝と小石で顔が描かれているのがわかった。
「あれはトシくんです」
「……どこが」
 振り返り、胸を張る近藤さんに苦笑が漏れる。
「似てねえよ」
「うそ俺早起きして頑張ったのに!」
 ガキかよアンタ。くつりと笑って真っ白の絨毯の上に一歩を踏み出す。
「俺が見本を見せてやる」
「お、そんじゃ俺もリベンジ!」
 袖をまくって、いざ出陣。雪に手をつっこもうとしたところで、トシ、呼びかけられて振り向いた。 近藤さんが俺の首にぐるりとマフラーを巻いて、冷たくなった手にあったかい手袋をはめる。
「これじゃ寒いだろ」
「……わすれてた」
「なんだそれ」
 近藤さんがふわりと笑う。
 でもほんと、うそじゃねえよ。アンタといると俺、いつも以上に体温が高い気がするんだぜ。
 完全装備になった俺は、薄着の近藤さんに抱きついて、その体温をたっぷり分けてやろうかと企んだ。



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冬、5題/白い、雪より白い息
20070129