ストレイキャット 4


「トーシ」
 呼びかけると、ぽたりと黒い尻尾が揺れる。あれで返事をしているつもりなのだろうか。
 近藤は笑いを噛み殺し、もう一度呼んだ。
「トシ、こっちおいで」
 ぽたり、ぽたり。反応するのは、あいかわらず尻尾だけ。
 とんとんと畳を指先で叩く。
「そっちは寒いだろう。寄り添っていればきっと温かいぞ」
 反応が、なくなる。尻尾を宙に浮かせたまま、微動だにしない。しかしそれはどこか、彼の内で逡巡しているようにも見えた。
 彼の気を害することを言ってしまったのだろうか。 ふいに思ったけれど、やがてぽたりと尻尾は畳の上に落とされて、それきり動かなくなってしまった。
 どうやら彼は、眠ってしまったらしかった。
 しょうがない、と近藤は苦笑して、ひとり冷たい布団の中にもぐり込んだ。 身体を縮こませてうとうととしていると、もぞり、足元の毛布が動いてはっとする。 冷たい空気に晒された足首はしかし、温かい毛皮に覆われる。 そっと頭だけを持ち上げた近藤は、先刻まで黒猫が丸まっていた場所がからになっていることを確認して、唇を緩めた。
「あったけえなァ、トシ」
 ぽたり。狭い布団の中でわずかに動くものを感じて、近藤は満足気に微笑んだ。

20061205/20070401