自然と足が向くのは、真選組と呼ばれているらしい、いわゆる警察部隊の屯所だった。
トシは慣れたふうにとある一室に向かう。迷いのない歩調はしなやかで音を立てず、なんの障害もなく目的の場所へと辿り着いた。
唯一音を立てるのは、首に巻きついた飾りの鈴だ。ちりん、と自分の所在を知らせるかのごとく、それは静かに鳴り響く。
やがて部屋の中から声が聞こえてくる。彼の名を呼ぶ声。ふわりと風が吹いて、小さな鈴がもう一度鳴った。
するりと開いた障子から、見慣れた顔が覗いた。驚いたふうに目を見開いた男は、トシの姿を確認すると、柔らかく笑みを作った。
それを見やったトシは、男の足許から部屋の中へと足を進めた。
遠慮のない行為にしかしくつりと優しく笑う男の声を背後で聞きながら、今しがたまで男が眠っていただろう布団の中へともぐり込む。
「おまえは気ままでいいなァ」
トシは遠慮という言葉を知らない。与えられたものはなんの憚りもなく受け入れてきた。そういう生活を、強いられてきたので、必然的に。
本当は、失うのが怖いのだと、トシはそのことに気づいていなかった。
それは決して彼が愚鈍であったというわけではなく、今までにそれほどまでに大切なものを見つけたことがなかったからだ。
トシはあとからもそりと布団の中へと入ってきたぬくもりに、そっと身体を預けた。
ただ単に、冷えた身体を冷やしたかったので。