嘘の吐き方
四隅がそろえられた書類の束を受け取る。それに軽く目を通していると、「あれ」という声があがって土方はつられるように顔をあげた。見れば近藤が自分の手のひらをまじまじと眺めている。どうしたのかと訊ねれば、なんか血がでてる、という答えがかえってきた。
「紙で切っちまったのかな」
こういうのって気づかないもんだよな、とひとりごちて、近藤の口に運ばれようとする手のほうへ、土方は無意識に腕をのばしていた。硬質の手のひらをつかんで指先についたちいさな赤いひと筋に唇をつける。ひかえめにそろりとだした舌を指先に這わせ、ついには口にふくんでしまう。かすれた声で名を呼ばれたが気にもせずにみだらな水音をたてて指に吸いつく。その行為に没頭していると唐突に口のなかの指に力がこめられ、舌をよけるようにして抜け落ちた。
「もういいよ、トシ。ありがとう」
先ほどのかすれた声は陰にひそみ、平坦な声がするりとこぼれる。ちらりと上目遣いで見やった近藤の視線は不自然に手前の畳のうえに落ちており、けっしてこちらを見ようとはしないのだった。
「もうだいじょうぶなのか」
「ああ」
「そう」
静かにうなずいた土方は書類に目を落とすふりをして、何度名を呼ばれたのだろうと関係のないことを考え気もそぞろになる。
20090104