寂しさは此処にも
近藤が留守のあいだに土方は用意しておいた大きめの段ボール箱を引っ張りだす。それを近藤の部屋のまえに置き、おもむろに片足をつっこみ、さらにもう片方、からだを沈めて身を縮こまらせるとふたを閉めた。そのままじっと待っていても、蒸し暑いうえに酸素は薄くなる一方だ。それでも土方は段ボールのそとにでようとは思わなかった。狭小な箱のなかでときおりからだを窮屈そうに揺らし、気休め程度に体勢をかえていた。
意識が朦朧としてきたころ、土方の鼓膜に馴染みのある声がとどいた。時間の感覚がわからなくなっている。段ボール箱に入ってから三分ほどしかたっていないのかもしれないし、とうに数時間たっているのかもしれなかった。
土方はうっすらと目を開け、聴覚にすべての感覚を預けた。足音が聞こえ、こちらに近づいてくる気配が大きくなる。無意識に舌でくちびるを舐めると、わずかに塩辛い。そこで土方は、自分が汗をびっしょりとかいていることに初めて気づいた。服が肌にはりついてしまっているし、顔も、水を浴びたのかというくらいに濡れている。
なんだこれ、という声が頭上から落ちてきた。近藤が帰ってきたのだった。段ボールのすぐかたわらに立っているようだ。
唐突に土方の視界は真っ白になった。同時にひんやりとした空気がどっと身をつつむ。まぶしさに土方はまばたきをくりかえし、久方ぶりの新鮮な空気を吸いこんだ。
「わっ」
そろりと眼球を動かすと、開けられたふたからおそるおそるといったふうにのぞきこんでくる近藤と目があった。
「と、トシ!?」
うん、とうなずこうとしたがわずかに首をかしげる程度で終わった。声もかすれてでない。土方はだるいからだをのそりと起こし、重たい腕をあげてびっしょりと濡れた額をぬぐう。
「おまえ、なにしてんだいったい」
「遅え」
「遅いって、俺を待ってたのか?」
部屋で待ってればいいだろう、てか、この段ボールはなんだ、なんでこんなとこに。困惑したふうの近藤のほうへと土方は両腕をのばした。
「アンタが拾ったんだからさいごまで責任とってくれよ」
あまり力の入らないからだを安定した腕に支えられ、土方はふたたびまぶたを閉じた。
20080920