097:濡れたプールサイド
濡れたプールサイドに腰掛けて、土方はうっとりとある一点を見つめていた。その一途な視線の先には、豪快かつしなやかに水面を泳ぐ近藤の姿があった。
25メートルを泳ぎきった彼を誇らしげに眺めていると、ふいに近藤がこちらを振り向いた。目が合うなり、ぶんぶんと大きく腕を振るのを見て、土方はちいさく笑ってしまった。
「どうしたトシ、おまえは泳がないのか」
ひとの波をかき分けて、近藤が傍までやって来た。土方は身を乗り出して近藤の耳元に顔を寄せ、内緒ごとを零すように声をひそめた。
「俺、実は泳げねェの」
「エッ、うそ!」
「ほんと。だからアンタが教えてよ」
くつりと笑い、ゆっくりと近藤のほうへと手を伸ばすと、すかさず大きな手のひらが目の前に差し出された。
「よーッし、俺に任せとけ!」
「ああ、頼りにしてるからな」
口実があればこんなにも容易く手を結ぶことができるのだ。その事実が嬉しくもあり、また悲しくもあった。
土方は濡れた熱い手を強く握りしめ、ひやりと冷たい水のなかに沈んだ。
06.11.30