095:だまされ上手
近藤を捜していた沖田は、ふと思い立って土方の部屋へと足を向けた。
「土方さァん、もしかしてここに近藤さんが」
来ていないかと、言いながら障子を開けた沖田の目にいの一番に映ったのは、部屋の主の土方ではなく捜し求めていた近藤の姿であった。
「あ」
「あ……っ、総悟、くん、どうし、どうしたの俺になんか、用」
みっともないくらいに慌てふためく近藤だが、それも無理はないと沖田は至極冷静に心中でため息を落とした。なぜなら近藤が慌てて飛び起きたのは部屋のまんなかで敷かれていた布団からであり、この部屋は近藤の部屋ではなく土方の部屋だからつまりその布団は土方のものであって。
近藤が騒々しく飛び出した布団のなかに、依然として残されている人影があるのは、沖田の目にもはっきりと映っていた。
「いやちょっと戸棚の上にある茶菓子が食べたくなったンですが自分の背ではとてもじゃないけど取れなかったンでそれなら背丈のある近藤さんに頼んでみようかと思っただけなんですけどねェ。まさかイイ歳してひとりじゃ眠れない人間の子守をしているとは思いませんで、それじゃあ失礼しやす」
「……あ、そう」
つらつらと淀みなくしゃべり終えると、沖田はぴしゃりと障子を閉めてその場から立ち去った。
呆気に取られたように、なぜか畳の上で正座していた近藤は、幸い服は着ていたのでよしとしよう。幸い、と言っていいのかは謎だが他に言いようがない。
あれで当人たちは気づかれていないつもりだろうから――いや、ふてぶてしく眠ったふりをしながら最後に憎らしげな眼差しを向けてきた彼はそうではないかもしれない――、まったく困った上司たちを相手にするのも楽ではないと沖田はしみじみ思う。
しかしそれよりも沖田の目下の悩みごとは、あの背の高い戸棚にある茶菓子にあった。
06.11.29