093:再会
「なんだよ、あいつ」
 そう不機嫌極まりない表情でつぶやいた土方は、本日何本目かになる煙草に火をつけた。噛みつくようにしてフィルターをくわえ、恨みがましく見つめる先には閉じきった襖がある。その室内では近藤と、近藤の道場時代の旧友とやらが歓談しているのであった。時折聞こえてくる笑い声がまた土方の気に障って仕方がない。
「土方さんが道場に居着く前に行き来していたひとだから、土方さんが知らないのも無理はないですぜ」とは沖田の言だが、それもまた苛立ちの原因となる。――居着く、という声音には少なからず厭味を感じなくはなかったが、ここではあえて言及しない。
 つまり土方は自分の知らない人間が近藤の隣にいるのは許せなかったのだ。
 あのひとを独り占めしたいという感情は彼を好きになってから膨れ上がる一方だったが、それを表立って呈するほど幼い年齢でもない。第一容易に邪魔立てするのは、あの一ミリの隙間もなく閉まった襖を前に気後れがしてかなわない。
 まるで自分だけが取り残されたみたいだ。
 眉間に皺を寄せていた土方は、いつの間にか短くなっていた煙草をあわてて地面に投げ捨て、乱暴に踏みつける。その所作には感情を露呈するものがいささか感じられたが、土方自身気づいていなかった。不貞腐れた面持ちのまま立ち上がり、縁側をあとにして自室へと戻った。畳の上にじかに横になり、このまま寝てしまえと目を瞑る。
 苛立たしい気持ちは消え去りはしなかったが、半ば強引に夢の世界へと落ちていった。
 次に目が覚めたのは、近藤の声が聞こえたからだ。
 焦点の合わない瞳を何度かしばたかせ、ようやく視界いっぱいに映る人影が近藤のものだと認識すると、無意識に口許が緩む。自覚して、くちびるを引き結ぶ。まったく、しょうがない。失笑して起き上がる。からだの節々がしびれているのに顔をしかめる。
「帰ったの」
「ああ、今さっき」
「ふうん」
 ゆっくり眠れたかと近藤が笑いながらやさしい手つきで髪の毛をすくってくるので、悪夢を見なかっただけマシだなと皮肉ってやろうかとも思った。実際、悪夢どころかなんの夢も見なかった。憶えていないだけかもしれないが。
 刺々しい気持ちとは相反して、おもいきり近藤に抱きすがりたい衝動に襲われたがぐっと堪えた。伸ばしかけた指先を冷えた畳の上に戻して爪をたてる。
「どうかしたか」
「なんでも」
 うつむいた土方を不思議に思ったのか、近藤が顔を覗きこんでくる。それから避けるようにふいと顔を背けてしまった土方は、これじゃ拗ねている子どもみたいだと自分の行動にいいかげん嫌気がさした。
 なんでもないとふたたびつぶやくと同時に、土方は近藤に抱きしめられていた。子どもを宥めるかのように背中を撫でてくる大きな手のひらに、腹立たしく思いながらもその心地好さにすべてを委ねたくなってしまう。畳の上で逡巡を繰り返していた手は、やがて近藤の背中にまわされる。
 自分のよく知る近藤だと強く感じたくて、先刻までの孤独を近藤に思い知らせたくて、ただひたすらに近藤を求めるのも時間の問題だった。


06.11.29