083:8月の秘密
立っているだけで汗が噴き出してくる八月。この暑いさなか、それだからカキ氷でも食べようかという話になったのは至って自然な流れであった。
近藤の裾を指先でつまんで、いそいそと炊事場へと連れ立ったのは他でもない、土方だったのだけれど。
「そういやシロップはあるのか?」
「もちろん用意してある」
近藤の問いに土方は得意げに頷いた。そんな土方の様子に不審を覚えたのか、近藤があわてたふうに口を開く。
「アッ、俺イチゴ味ね、マヨネーズは遠慮しておきます!」
「……チッ」
「え、なにその悔しそうな顔まさか」
「冗談だよ、ちゃんとあるって」
手動のカキ氷機に氷を載せて、ハンドルを回して氷を削る。シャリシャリという氷の削られる音が、涼しさを演出してくれた。
「うまそう」
「まだ味なんてねーぞ」
細かくなった氷を見て近藤が感嘆の声をあげるのに、土方は苦笑してあと少しだから、と額にかいた汗を拭った。
「みんなの分も作らないとな」
「氷、もうこれしかねえから無理」
夏場は氷の消費量も馬鹿にならない。今だってちょうどふたり分の氷しか残っていなかったのだ。
「贅沢だなァ」
出来上がったカキ氷にシロップをかけながら、しみじみと近藤がつぶやく。土方はさらさらの氷の上にたっぷりマヨネーズをかけながら、安い贅沢だなァと笑いを噛み殺した。
「みんなには内緒な」
ああ、カキ氷よりもあまい、ふたりだけの秘密。
06.11.05