079:雨、停留所、キミ、ボク
*** 3Z

「次のバスは……三十分後、だってよ」
「エッ、三十分て、そんなに!?」
「あ、別に俺はアンタを責めたりなんかしねーからな。たとえアンタがトイレに入って三十分も出てきやしなかったこととか、心配になって呼びに行けばアンタは呑気に便器の上で居眠りこいてたこととか、すっかり待ちぼうけ食らってたことなんてぜーんぜん、気にしてねェしなァ」
「せ、責めてんじゃん! すごォく気にしてんじゃん……!」
「あーこれじゃおれ、家帰れねえわ」
「え!?」
「だからアンタの家に泊めてよ、近藤さん」

 降りだしたばかりの雨は豪雨となり、停留所の屋根に騒々しく打ちつける。 会話をするにも、いつもよりちょっとばかり腹に力をこめてしゃべらなければ、相手に声は通じない。幸い――あくまで土方にとっての都合の良さであったが――、バスは行ったばかりだったので、停留所には土方と近藤のふたりしかいなかった。
 土方は、肩がぶつかるくらいの距離にいる近藤を上目遣いで見やって、ちいさく笑った。
「それで、シャワーも貸して」
 そしたらアンタには、おれを貸してあげる。
 最後につぶやいた言葉は半分冗談で、半分本気であった。ただしその声はちいさすぎたので、雨にかき消されて近藤の耳には届かなかっただろう。
 それでも、「わかった」と満面の笑みで深くうなずいた近藤に、土方が思わず動揺してしまったのも、無理はない。
「返品は不要だな」
 なにが、と訊くことはできなかった。雨の音が聞かせた幻聴であったのかもしれなかったので。


06.10.29