077:ジレンマ
沖田の頬が尋常でないほどに腫れあがっている。
気づいた土方がどうしたんだと尋ねてみたが、沖田は「見廻りの最中、ちょっとよそ見してたら電柱にぶつかったンです」と見え透いた嘘をつく。
「おまえ、見廻りなんざ行ってねえだろ」
サボってばかりのくせに。大体、よそ見していて電柱にぶつかるというのも怪しい。頬が腫れあがるなんて、相当な勢いでぶつからなければそうはならない。
詰め寄ると、沖田はいっそすがすがしいほど容易に口を割った。
「近藤さんに殴られたンでさァ」
思わず、土方が息を飲み込むほどに。
「羨ましいですか?」
簡素な問いかけが脳内を駆け巡る。まっすぐ見つめてくる沖田の眼差しに耐え切れず、土方は視線を足元に落とした。
「……バカな」
そんなこと、あるわけがない。
つぶやきは声にはならず、答えを待とうともせずに踵を返した沖田の背中を土方は睨みつけることしかできなかった。
06.10.25