とんだ失態をさらしてしまったと、土方は肩を落として自分の行いを悔い唇を噛みしめていた。
見やった窓の向こうには、オレンジ色をした夕陽が望める。記憶にある、秋晴れの真っ青な空は身を潜めていた。
いつの間に、眠ってしまっていたのだろう。思い出すのは、困難に等しい。寝不足では、なかったはずだ。なのに、ベッドに寝転がって雑誌を読んでいたら、ふいに記憶が抜け落ちた。それだけこの部屋が、居心地好いということだろうか。
この部屋の主は、土方が目を覚ましたことすらいまだ気づいた様子はなく、ベッドに背を向けたままテレビにご執心のようだ。
土方はその背中をじっと見つめたまま、思わず嘆息した。
(もったいねェ……)
せっかくの休日。近藤の家に訪れたというのに気づけばひとりで昼寝。この部屋にやって来て、大半を眠りの時間にあてていたということになる。
(……冗談)
近藤も、なんで起こしてくれなかったのかと内心で非難めいた感情が生まれる。だが、彼のやさしい性格を鑑みれば、昼寝に興じる土方を起こすのは心許ないと思ったに違いない。それが、土方にはまったくの不本意なことであったとしても、だ。
ため息を落とすと、その気配に気づいたのか近藤が振り返る。「起きたか」と目を細めて笑うその様に皮肉の色は一切なく、それが改めて土方の胸中の後悔を色濃くした。
「最悪」
「は?」
第一声、土方の吐き出した言葉の意味を理解できないといったように、近藤が首をひねる。それもそうだろう、目一杯睡眠を貪っていた土方を目の当たりにしていたのだから。狼狽えたふうの近藤は、まったく見当違いのことを言い出す。
「なんか、怖い夢とか見たのか?」
「ちげーよ」
夢を見たのは事実。ただしその内容はといえば、恐怖とはかけ離れた、安らかなものといってもいいだろう。
はっきりと憶えてはいないが、近藤が出てきたのは確かだ。彼が微笑みかけてくれる。それだけで、土方の胸は幸せでいっぱいになった。
それなのに、目を覚ますと現実が待っている。せっかくの近藤とふたりで過ごせる時間を台無しにしたのは、他でもない自分だ。
「……つまんねェ休日を過ごしちまった」
言い放った途端、近藤の表情が揺れ動いたのに土方は視界の端で捉えた。それを見て、はっと口を噤む。もしかすると、誤解されてしまったのかも。あわてて、弁解するように言葉を紡ぐ。
「明日からまた学校はじまるし。なのに寝てたなんて、もったいねェことしちまったって」
家と学校を行き来するだけの日々がまたはじまる。繰り返される単調な日々。
「……行きたくねェな」
言いながら、なにを登校拒否児みたいなことを、と笑いがこみあげてくる。ただそれは本心であった。
今日みたいに、ずっと近藤の隣にいたい。くだらない話をしたり、一緒に昼寝をしたり、何をするでもなくただ傍にいたかった。なんの邪魔もなく、ふたりきりで。
……まるで駄々っ子じゃねェか。前言撤回すべく口を開きかけた土方は、それよりも先に言葉を発した近藤に思わず目を丸くする。
「それじゃ、俺が朝、迎えに行ってやるから」
「……アンタが?」
「迷惑か?」
「そんなことは」
ない、とかぶりを振ると、近藤は「寝坊なんかするなよ」と破顔した。
「するワケねーだろ」
唇を尖らせ反論しながら、むしろ今日は眠れないかもしれない、とまるで遠足を明日に控えた子どものような気分を土方は久々に味わった。