合鍵をもらったのはいいが、実際使うとなるとなんだか気後れしてしまう。気後れ、というよりも気恥ずかしさと言ったほうが正しいのだろうか。
アパートの一室、扉の前に立って早十分。手のひらの中の銀色の鍵と睨めっこしているには、木枯らしが吹くこの季節、いささか長すぎたかもしれない。
なんだこんなもの。鍵穴にさしてぐるっと回してやるだけじゃないか。そうしてドアを開けて、暖かい室内に入ればこんな手がかじかむこともないだろうに。
大きく深呼吸し、鍵穴に鍵を近づけてはみたものの、それ以上先に進むことはできない。じりじりと時だけが過ぎていく。だがこうしていても仕方がない。
やがて決心したかのように、鍵をジーンズの尻ポケットに押しこんで、肩より低い高さにあるインターホンを指先で押した。
すぐにドアの向こうで物音がしたかと思うと、開いたドアの隙間からこの部屋の主が顔を覗かせた。
「近藤さん」
嬉しそうに笑む、その表情にほっかりと胸があたたかくなる。
「遅かったのな。待ちくたびれた」
「おお、悪い悪い」
たぶん、この醍醐味を知っているからだろう。ひとに迎え入れられる喜びが、寒さなど吹き飛ばしてくれる。
どうやら、合鍵の出番はまだ先のようだ。