072:paradox
 意識が薄弱としたなかで、傍らのぬくもりへと手を伸ばす。 つかんだそれを、すがるみたいにぎゅっと握りしめ、ようやく安心したかのように、眠りについたのはもう日の変わったころだった。
 あくる朝、息苦しさに土方は目を覚ます。
 どうやら、抱きしめられているらしい。そう理解できたのは、鼻先がよく知ったにおいにうずめられていたからだ。
 身じろいで、なんとかその拘束から抜け出そうとするが、まず両腕が不自由であるのでどうにもうまくいかない。そうしているうちに、当の近藤が眠りから起きた。
「おはよー、トシ」
 まだはっきりと開いていない眼差しを向け、近藤は言う。土方もおはようと言い返してから、「苦しいよ、近藤さん」と唇を尖らせた。
 依然として腕の力は弱まっていない。近藤は、土方の言葉を聞いて今はじめて気づいたかのように、「ああ」とちいさく頷いて、
「トシが悪いんだぞ」
「……はあ? なんで俺が」
 俺は被害者だぞと顔をしかめれば、近藤は意外なことを聞いたかのように目を見開いた。
「だっておまえが離さなかったんじゃん」
 それまで感じていた違和感が、ようやく意識の下にやって来た。
 何度も何度も、近藤の腕のなかから抜け出そうとしていた土方の拳は、近藤の寝衣を固く握りしめていた。


06.10.12