070:君影草
たとえるのならば、そう、土方十四郎という男。
真選組の局長である近藤をうまくサポートし、ここまで組織を大きく築き上げたのは得てして土方という強力な右腕の存在があったからだろう。
鬼の副長と呼ばれる彼への誹謗中傷は、的を得ているものもあればそうでないものもあり。近藤が温和である点、土方の情け容赦のない厳格さが際立ってしまうのかもしれない。
噂がひとり歩きしているものが大抵だが、いささか暴走しすぎる点は彼の欠点と言わざるを得ないのだが。とりわけ近藤のこととなると周りが見えなくなるらしい土方は、近藤にまとわりつく虫を嫌い、なぎ払ってきた。
こうして怖れられる副長とのし上がっていた土方だったが――。
「トシ、出張のお土産」
「お土産って……近藤さん、それって道端に咲いてたやつなんじゃ」
「うん、きれいだから摘んできた。かわいいだろ?」
近藤の笑顔には、敵わない。土方は、その無骨な手とかけ離れた可憐さを持つ一輪の君影草を受け取り、微笑んだ。
「ん……、ありがと」
土方の、すっかり毒気の抜けた一面を窺うことができるのは、ゆえに近藤ただひとりだけなのだ。
06.11.19
*君影草[スズランの別称]
春から初夏にかけて芳香のある鈴のような白い花を複数個、葉の下側に隠れるようにつける。全草に毒を持ち、特に根の毒が強い有毒植物。
花言葉は「幸福が訪れる」「純潔」「純粋」