069:偶然
偶然とは到底言い難いほど視線が合う。
今日も朝から幾度となく目が合って、そして今この瞬間にも目が合っている。
土方は高鳴る心臓の音がばれないように、しゃんと背筋を伸ばしておもむろに口を開いた。
「なんか用、近藤さん」
さり気なさを装って訊いたつもりだが、はたしてそれは成功しただろうか。胸中での土方の心配をよそに、しかし近藤は真顔であったのを笑顔に変えて、
「ついてる」
「は」
避ける間もなかった。口許を拭い取る、近藤の指先を見やればマヨネーズがついている。
「気づいてなかった?」
「……」
尋ねられたが、土方は答えることができなかった。
いつから、だろうか。朝飯を食べてから今の今まで、こんな醜態をさらしていたというのだろうか。
羞恥心に加え、恥を知らせてくれる者がいなかったことへの怒りから肩を震わせる土方に、近藤はあいもかわらずさらりと笑いかける。
「わざとかと思ったトシくん」
――んなワケねーだろうが! 喚きたいのをぐっと堪え、土方はわざと唇を尖らせ近藤を見上げた。
「アンタが取ってくれンのを待ってたんだよ」
投げやりに言い放ち、舌で、と付け加えてやる。狼狽える近藤の様を見たくて言ったのだが、意外にも近藤は笑顔を控えてそう、とひとりごちた。
思惑がはずれ、また対する近藤の態度に首をかしげた土方は次の瞬間、飛び上がりそうになった。
ぬるりとした感触が唇に触れたのだ。マヨネーズがついていた口端から、反対側の口端までなぞるように。
声を失う土方に、近藤は「おまえが言ったンだろー」と快活に笑った。
その手にマヨネーズが握られていたのを、土方は熱の上昇する意識のなか、確かに見たのだった。
06.10.11
黒いこんどうさんと天然???のトシくん