そろそろ終電の時間だ。こたつのなかでぬくぬくと暖を取っていた近藤は、壁にかかった時計を見やってふいに現実に戻される。
「トシ、俺そろそろ帰るな」
重たい腰を持ち上げて、そう帰宅することを告げると、同じようにこたつに入りテレビを見ていた土方がわずかに眉根を寄せた。
「もう」
「ああ、明日もはやいし」
「……ふうん」
つまらなさそうにつぶやいた土方はしかし、すぐにテレビへと視線を戻した。近藤は困ったふうに頭を一度かいて、「帰るからな」とふたたび念を押すように言った。
「……あれ」
窓の外では冷たい風が吹きすさんでいる。なので買ったばかりの暖かいダウンジャケットを着て土方の部屋にやって来たのだが、そのジャケットが見当たらないのだ。
部屋に入ってから脱いだそれを、土方に預けたことまで憶えている。また、土方がハンガーにジャケットをかけてカーテンレールに吊るしていたことまで、見ている。
だがしかし、今部屋のなかを見回してもそのジャケットの姿は一向に見つからない。カーテンレールには、物寂しそうに針金のハンガーが引っかかっているだけだ。どこにいってしまったのだろう。
「トシ、俺のジャケット、知らない?」
「知らねェ」
飄々と言い放つ、その口調には何か裏がありそうだと、土方を胡乱に見つめていれば視線に気づいたのだろう、彼はうっすらと口許を緩めて近藤を見上げた。
「帰れないな、その格好じゃ」
近藤が着ているのは薄いセーター一枚だ。これで真冬の街中を歩くのはいくら近藤だって心許ないにちがいなかった。
「泊まっていってもいいけど」
傲慢な言い方とは対照的に、その瞳はわずかに不安で揺れている。見上げてくる双眸に笑いかけた近藤は、「世話になるよ」と腰を下ろした。
その後布団を出すために開けた押し入れの奥から、見慣れたジャケットを見つけてしまったが見ないふりをしておいた。