053:こぼれた涙
 それはけっして悲しいわけでもなく痛いわけでもないのに、ふいにこぼれた涙がそのひとにひどく狼狽させてしまって、ああ、だから俺はこのひとのことがこんなに好きなんだなァ、なんてしみじみ思ってしまった。
「ごめんトシ、痛かった?」
「……ッていうか、このまんまでいるほうが、つらい……」
「あ、悪い」
 そうして揺さぶられるとまた瞼の奥が痛くなって液体がぽろぽろとこぼれていく。なァ近藤さん、しあわせだから涙がこぼれるだなんてこと、アンタと出会うまで知らなかったよ。


06.09.18