050:trance
「――近藤さん、アンタは俺を好きになる――」
ゆらりゆらり、揺れる糸の先にはコインがぶら下がっている。
「アンタは俺を好きになる――」
左右に揺らしながら、念じるよう何度も繰り返す声色は次第に熱を持ちはじめる。
「アンタは俺を」
「そんなことしても無駄だよ、トシ」
ふいに、苦笑混じりの声がぴんと張り詰めていた空気を突き破る。それまで一定に振動していた振り子が乱れた瞬間だった。
「……ンなこと、俺にだってわかってる」
苦悶の表情を浮かべ、ぎり、と拳のなかの細い糸を握りしめたのは土方だ。乱れ、揺れ動くコインは、彼の心情を如実に表しているようだった。
「こんな子ども騙しみたいなことしても、アンタは俺のことなんて」
「トシ」
ふわり、宥めるみたいに呼びかけられ、自嘲気味の言葉は失われる。
「今さらこんなことしても無駄だって言ってるんだ。だって俺は、もうとっくにおまえのことが――」
06.10.15