046:ささやかな口付け
 薄くくちびるを開けてくちづけをねだってみてもあのひとはちッとも動じてくれやしねえ。 ああそういえば、なんてわざとらしく話題をありきたりな天気の話に変えておれから視線をそらしてくれるものだから、ぷっつんと我慢の限界がくるのもしょーがねェモンだよなあ。
 このまんま押し倒して乗っかってヤろうかと脳内でこっそり企てていた淫靡な計画が払拭されたのはけっして、ここがひとで賑わう道の往来だったからではなく。
「こんどう、さ」
 額にぶつかった感触はほんの一瞬。にぃ、と口角を上げて笑うそのひとを見て、ああやられたのはおれだ、なんて簡単にオチてしまう。
 完全に不意をつかれたのだと悟ったときには俺の顔はカッカと熱くなっていて、それを見て「なんだトシ、真っ赤になって」と嬉しそうに笑うものだからまったく、ひとが悪ィのとごちるしかない。
 ぐちゃぐちゃと前髪をかき混ぜて、それでも消せないささやかながらも強烈なくちづけの名残の責任は、アンタがちゃあんと責任とってくれよ、な!


06.08.30