041:爪痕
 幾重もの赤い筋が走る背中に土方は手を伸ばした。 触れた瞬間にぴくりと背中が揺れ、続いて「起きてたのか」と近藤が身をよじらせ振り向いた。 土方は毛布にくるまったままこくりと頷き、近藤の背中をゆっくりと撫でた。散々自分が引っ掻いてできた爪痕がそこにはある。 うっすら赤いだけのものや、わずかに血がこびりついているもの、そのどれもが先刻までの情事をはっきりと彷彿させるので、それを眺めているだけで土方の口許は緩く笑みの形を刻んだ。
 痛みにか近藤がしかめ面をしているのに気づいて、土方は「ごめん」と口の中で呟いた。名残惜しそうに背中から手を離すと、近藤が「別にこれぐらい」と気兼ねなく笑う。
「トシのほうがよっぽど、つらい思いしてるもんな」
 そうして大きな手のひらが土方の髪の毛をやさしく梳いていった。まるで壊れ物を扱うような繊細さをそなえている。 土方はその近藤の所作が好きだったので、身を任せるまま瞼を閉じた。
(……全部わざとだ)
 拳を握り締め、近藤の背中に触れた感触を思い出す。
(俺を、思い出せばいい)
 身体に刻まれた爪痕を見て、感じて、近藤に常に自分の存在を身に染み渡らせていたかった。
 絶やすことは許されない。彼の背中から己のつけた爪痕が消え去ってしまう前に、また新しく爪をたてる。
(……そうでもしないと、)
 そうでもしないと、近藤が自分から離れていってしまうのではないかという焦燥に、押し潰されそうになってしまうので。


06.08.22