040:呼ぶ声
 風の強い日だった。ごうごうとやかましい音を立てて木々が揺れ、声を掻き消してしまう。
「近藤さん」
 呼びかけてみても、数歩前を歩くひとにすら声は届かない。
「近藤さん、」
 土方はもう一度名を呼んだ。わずかに張り上げたその声に、ようやく近藤が足を止め、振り向いた。
「……どうした、トシ」
 なんで泣きそうなかおしてるの。驚いたふうに目を見開く近藤に、土方は初めて、自分がひどく顔を歪めていたことに気がついた。
「ごめん」
「……なにが」
「ちょっと、いじわるしてみた」
 ちゃんと聞こえてたよと朗らかに近藤が笑うので、土方は拗ねたふうにくちびるを尖らせて、頬に伸びてくるゆびにやんわりと噛みついてやった。


06.08.22