039:着信履歴
 近藤がトイレに立ってから数十秒もたたないうちに、近藤の携帯電話がテーブルの上でぶるぶると震えだした。 バイブ設定にしてあるその携帯電話は振動によりわずかながら右へ左へ移動する。
 土方がじっとそれを見やっているうちに、電話は切れた。誰からの着信だったのだろうと思うのだけれど、今にも手を伸ばしてしまいそうになるのを必死でこらえた。
 やがて近藤が席へと戻ってくる。土方はちらりと近藤を見て、またテーブルの端に置かれた携帯電話に視線を戻した。うん? と近藤が首をひねって、携帯を手にする。
土方はそれを視線で追う。折りたたみ式のそれが開かれる。あいかわらず、土方の目は近藤の携帯電話に釘付けになっていた。
「とっつぁんだよ」
 近藤の声に、土方ははっとして顔を上げた。近藤が苦笑している。土方はくちびるを尖らせた。
「べつに、きいてねえ」
「そうか」
 またあとでかけなおしてくるだろうと近藤は言った。 それに気のないふりをしてそっと近藤から視線をはずした土方は、近藤の電話が自分以外の人間とつながっていることを改めて認識して、無性に癪に障った。


06.08.24