近藤の見合いを明日に控えた前日の晩、いてもたってもいられなくなった土方は近藤の部屋を訪れた。
日付が変わる前だったので、まだ近藤が眠っているとは思っていなかったが、ぼんやり机の前にあぐらをかいている後ろ姿を認めて、土方は驚いた。
滅多に吸うことのない煙草を燻らせながら、近藤が振り向く。行灯のあかりに照らされたその表情には、病の気配は消え去っているように見えて、ちいさく安堵の吐息がもれた。
「風邪はもう平気、」
「ああ、トシが手厚く看病してくれたおかげで、すっかり治った」
「ばか、」
軽口に、土方は笑い返し、近藤の傍らに座り込む。書机には、サイン済みの書類と、あまり見かけない灰皿が置かれている。
煙草を灰皿に押しつける手に、土方はそっと自分の手のひらを重ねた。近藤の手のほうが大きく、厚い。皮膚越しに伝わる熱を感じ、目を細めた。
「抱いて」
言うなり、土方は近藤に抱きすくめられていた。その拍子に、書類が畳の上に散らばってしまったが、ふたりとも気にかけることはなかった。
力強いその腕の中で、このまま死んでしまえたらと土方ははかなく願った。そうして、馬鹿げたことを、と自嘲する。
今、確かに近藤に抱かれているはずなのに、なかなか実感がわかないでいた。ここで殺されても、きっと何ひとつ後悔することはないだろう。
土方はそんなとりとめのないことをつらつらと思い巡らしていたが、そんな思考すらもじきに混濁とした意識の中に沈んでいった。
常からは想像もつかないほど、近藤の指先がやさしく繊細に動くことを、土方はその日身をもって思い知らされた。