たとえばこの指先に力を込めてみたら押された喉仏はどうなるのだろうと考えてみると、ぞっと両腕が粟立つような、そんな興奮が押し寄せてくるのだった。
近藤は依然として自分の行動にはなんの警戒心をもつこともなく眠っている。あどけないその寝顔に土方は知らず微笑んで、しかしあいかわらず手のひらは近藤の首元に置かれていた。
眠る近藤の傍らにぺたりとしゃがみ込み、腰をひねって上半身だけを近藤のほうへと向けている体勢では、ほんの少し苦しいものがあったけれど、それでも近藤に触れていたいという気持ちのほうが強かったのだ。近藤の、首元に。
手のひらにあたる凹凸の感触がひどく愛しかった。重みを与えてはいないが、それでも近藤は何かを無意識に察知しているかのようにたまに息苦しそうに喉仏を上下させ、わずかに顔を傾けたりする。
土方はくすくす笑って指先でその喉仏を撫でてみたりしてひとり楽しんでいた。手のひらをどけるつもりはさらさらなかったので、そんな至極ささやかな攻防が数回続いた。そんなやり取りを、土方はやはり微笑んで、行なっていたのだ。
(……たとえば、)
たとえばいまここで近藤を死なせてみたりしたら自分ははたして満足するのだろうかと、考えてみる。結論は、――否。
土方はゆるりとかぶりを振って、細く息を吐き出した。名残惜しそうに近藤の首元から手を離す。氷のように冷たい指先は、ほんのわずかな接触であったにもかかわらず、まるで近藤の熱が移ってきたかのようにあたたかく感じられた。
(アンタに触れてると、やけどしちまいそうだ)
この冷たい指先が、近藤に触れるだけでぽっと熱をもち、ひどく心を揺さぶられて一瞬で熱くなる。けれどそれはけっして、不快ではない。
もう少しだけ、土方はこの戯れを楽しんでいたかった。近藤のぬくもりを肌で感じていたかった。
――それが酷なまぼろしであったりしても、だ。わきあがるその感情を、土方はずっと忘れることができないでいた。ゆえに、指先はそのやさしい体温を感触ではなく感覚で憶えているのだった。
「こんどう、さん」
近藤に届くはずもない言葉を唇にのせてみた。
「アンタがおれのことを忘れたら、そのときは、アンタも道連れにしてやるからな」
だからあともう少し、あなたのそばにいることを赦してください。
土方はもう一度近藤のほうへと手を伸ばした。その指先はけっして、近藤に触れることはできなかったのだけれども。
(幽霊のはなし)