033:ラベルのないビデオテープ
「……なんだこれ」
近藤の部屋でごろごろと寛いでいた土方は、テレビの横に立てかけられた一本のビデオテープを見つけた。
寝転がったままおもむろに腕を伸ばし、まじまじと見つめる。それにはラベルが付いていないので、中身がなんであるかは再生してみないとわからない。
「ふん、」
土方は腕をついてゆっくりと起き上がる。もそもそとテレビに近づいて、テープをデッキに差し込もうとした。そのときだった。
「あああああッ!!」
突如として部屋に響き渡った悲鳴に、驚いた土方はびくりと肩を揺らした。手の中からかしゃん、とビデオテープが転がり落ちる。
「トシ、おま、何してんのォォ!」
「近藤さん、」
振り向くと、開け放ったドアの前で、顔色を変えた近藤が立ちすくんでいた。
「何って、」
「ダメダメダメダメ、ダーメ!!」
どすどすと大股で歩いてきた近藤が、土方の眼下にあるテープを奪い取っていった。
その素早い仕種に、土方は近藤をじっとりと見つめる。近藤は目を合わせようとはせず、斜め上空を見上げたりしている。
「……なんだよ」
「なんでも、ない」
「なんでもねーわけ、ねェだろうが」
今の近藤の行動を見て、幾人がその言葉を信用するだろうか。不審は募るばかりである。
「……わかった」
「へ」
「AVだな」
近藤の手に握られた、黒いテープを睨みつける。自分にひた隠しにする理由は、それ以外に考えられなかった。
「別に、そんなに隠さなくていいのに」
そうは言っても、無論いい思いはしないけれども。
土方はわずかに頬を膨らませ、「別にそんなもの」と独りごちた。
「あー、うん……」
それなのに、近藤は何故か煮え切らない態度で、テープを指でつついたり引っ掻いたりしている。
「ちげえの、」
「んー……」
「じゃあ何」
「秘密」
「っ……」
いい加減にしろと、こめかみに青筋を立てた土方は猛然と近藤に飛びかかった。土方はもともと、気が長い方ではないのだ。
ぎゃあ、と盛大な悲鳴を上げて、倒れ込む近藤からビデオテープを奪い返す。
「トシくん!」
「うるせえ!」
太い腕を伸ばしてくる近藤の顔面を手のひらで突っぱねながら、もう片方の手でテープをセットする。
手探りで手に入れたリモコンで再生ボタンを押した。画面に映った思いも寄らなかった映像に、土方は目を丸くした。
確かにAVではないがAVよりもタチが悪い。画面のなかで喘いでいるのはAV女優ではなく己の姿だったのだ。
まざまざとよみがえるのは、先日の情事の最中近藤が言い出した提案ごとだ。
OKを出した記憶はないが、実際にこれを目にすると自信がない。しかし撮られているということすら記憶に皆無だ。
それだけ自分も興奮していたということだろうか――常にない状況に。
「近藤さん……」
振り向くと近藤がよく撮れているだろうと顔を赤らめて言ってくるので、土方は「ああ、そうだな」とぼんやり答えるほかなかった。
06.07.09