031:もう一度
 屯所内では今、トランプゲームが流行っていた。例に漏れず、トップふたりもその遊びに興じていた。
「近藤さん、また明日にしようぜ。俺、眠い」
 ふわあ、と土方はあくびを漏らした。既に日付は変わっている時刻だ。正面に座る近藤を見やる。彼は手持ちのトランプを睨みつけていた。
 たかがババ抜き。ここまで夢中になるのもどうかしてる。
 近藤はことさらババ抜きが弱い。あからさまなほど表情に出てしまうので、誰がジョーカーを持っているのかすぐにわかってしまう。 隊士たちとの勝負で一度も勝利を手にすることができなかったのが悔しかったのか、土方にさしで勝負を挑んできた。土方はこういうゲームは、得意なので。
 近藤の頼みというのであれば、断れない。しかしいかんせん、ふたりでババ抜きというのは、いささか味気ないものがあった。盛り上がりに欠けた。ひとり悔しがっているのは、土方との一対一での勝負でも一度も勝てない近藤だけだ。
 夜も更けた頃合、取り分け酒も入っているし、このまま眠ってしまいたくなる。しかし近藤は、土方の切なる願いをかぶりを振って一蹴した。
「ダメだトシ! 今夜は寝かさんぞッ!」
「……」
 ――そういうのは布団の中で言ってくれ。
 土方は恨めしそうに近藤を見やったが、当の近藤の頭の中にはトランプのことしかないらしい。
 しばらく続きそうなこのゲームに、土方はしばし意識を遠退けた。


06.07.10