「おまえは好きなひととか、いないのか?」
不意に問いかけられて、動揺した土方は思わずかきこんでいた飯を噴き出してしまった。
「な、に言ってんだよ、近藤さん」
水で喉に詰まった水を押し流し、濡れた唇を手の甲でグイと拭う。
動揺を表面上に映したのは一瞬だったが、それでも内心では心臓がばくばくと音をたて、平静を取り戻すのに必死だった。
「だっておまえ、モテるだろう?」
「知るか」
にべもなく言い放ち、土方はすっかりマヨネーズだらけになっている丼にさらにマヨネーズを付け足した。正面で近藤がウッと唸ったがお構いなしだ。
「なあ」
「もうその話は終わり」
それよりアンタもマヨネーズいるかと尋ねると、近藤はあわててぶんぶんと頭を横に振った。
つまらなさそうに土方は鼻を鳴らし、おとなしくマヨネーズを丼の隣に置いた。
それはまだその話を続けるつもりであればいつでもこれをぶちこんでやるからなという牽制のつもりでもあった。
土方は味のわからなくなってしまった親子丼をかきこみながら泣きそうになるのを必死でこらえた。
大好きなマヨネーズの味すらわからなくなってしまったのはけっして土方が味覚音痴だからというわけではなく、彼のいまの心情が大きく関係していたのだった。
記憶を失ったとはいえ、恋人から――恋人だった、というのにはあまりにも悲しすぎた――好きなひとの有無を尋ねられるとは思ってもみなかった。
(俺はアンタが好きなんだよ)
いつまでこの感情をごまかさなければならないのだろうか。もう厭だと土方は思った。
なんで好きって言ったらいけないんだ。なんで俺のことも忘れちまったんだ。
次第に近藤を責める気持ちまでも生まれてしまい、その卑しさに土方はうんざりした。
(好きなのに)
なんだか吐き気がして乱暴に丼を卓袱台の上に置いて立ち上がると、近藤が「だいじょうぶか。そんなにマヨネーズかけるからだ」と心配そうに声をかけてきた。
土方は「そうだな」と曖昧に頷き返して部屋を出た。とにかくいまはその場から抜け出したかったのだ。